「うわ。なに? いーにおい」
圭輔の開口一番がそれだ。
玄関で靴を脱いでリビングへと歩き進めながら鼻を動かす。
「大したものはないの。でも折角圭輔が来ると思って」
そう言いながらキッチンへと戻る楓はレンジへと向かう。
「…ここ、オーブンがないから。いつもみたいに出来たかわかんない」
「匂いで判断すれば、全然問題なさそう」
ふふっと笑って楓は手際良くコンロやシンクを行き来する。
その様子をカウンターチェアに座って頬杖をつきながら圭輔は眺めていた。
「ごめんね。もう終わるから」
「…姉ちゃんて、彼氏とかいないの?」
圭輔の質問に、洗い物をしていた楓の手が滑って食器が音を立てた。
「な、なに? 急なんだから。いないよ」
「そうなの? その慌てぶりだとてっきり―――」
「圭輔に嘘吐いてどうするのよ」
「…確かに。でも姉ちゃんの料理食べれる奴がいるなら羨ましいなぁと思っただけ」
「変なの。今、これから食べる人が」
楓は笑って言うと、小さな折り畳みテーブルへと作った料理を運び始めた。
圭輔もそれを見て椅子から立ち、適当にキッチンから物を運ぶ。
「ああ。オレこれ好き」
そう言って運んでいるのはレンジから出した湯気の上がっているキッシュ。
「だから作ったんだけど、どうかな」
楓ははにかみながら圭輔とすれ違ってキッチンに戻る。
圭輔はそれをコトリと狭いテーブルの中央に置いて呟いた。
「そうやって言って貰えるのはいつまでかな」
「え?」
「なんでもなーい」
「もう。変だよさっきから! さ、食べようか」
二人はテーブルを挟んで向かい合って座
った。