その時近くのテーブルから歓声が上がった。

楓と瑠璃は目を丸くして見合わせた後、その盛り上がる方向へと視線を向ける。


「ドンペリ入りまーす!」


そのお祭り騒ぎのテーブルについていたのはリュウ。
そしてその横に座っていたのは、昨日も見た絵理奈だ。

昨日はそこまで何も感じなかったが、改めて絵理奈を見てみると見た目などから金を匂わせる客だ、と楓は思う。

現に連日のホストクラブ入店。

そして今、高級な酒を入れて楽しそうに笑っている。

隣に座る瑠璃とはかけ離れていて、楓はただただ呆然としていた。


「…すごいね…あそこのテーブル」
「ああ…うん。そうだね」
「お客さんも、すごく美人さんだね」
「そう? 僕は瑠璃の方がいいと思う」


それは単純に発した言葉だった。
男としてでも女としてでもなく、一人の人として楓が感じたから自然に出た言葉。

けれど、その言葉に反応がなくて楓がふと隣を見る。

すると、酒を飲んでいない筈の瑠璃の頬がみるみる赤くなっていた。


(ああ、マズイ)


楓はその瑠璃の紅潮の意味を理解すると、変に気を持たせてはだめだ、と思い直して席を立つ。


「ごめん、瑠璃。ちょっとあそこに行かなきゃなんないから…待ってて?」
「あ、うん…」


楓はタイミングよくコールが入ったので瑠璃と距離を置くように席を外してリュウのテーブル付近へと向かった。