パタン、と閉まったドアを背に、自分が隠れた方向に歩いてきた人物を見てケンはさらに息を殺した。
なるべく奥に体を隠し、壁にこれでもかというくらい背を押し付けて。
ドクドクと心臓が暴れていたが、それに気づくことなくその人物がエレベーターに乗り込んだのを確認すると、ケンは一気に崩れ落ちて、大きく息を吐いた。
「…っは……ど、堂本さん…?」
見間違いではない。
今、去って行ったのは堂本。
「……一体…?」
別にレンの家に堂本が訪ねてくるのは不思議な事ではない。
元々、堂本に声を掛けられ連れてこられた家が、ここ―――レンの家だ。
そこから察するに、堂本とレンは深い仲であるということ。
それは具体的にどんな関係かはわからないが…。
その二人が自分とリュウの名を口にすることはわかるが、内容が気になるところ。
ケンは堂本もレンも、信用している。
だが、やはり気になるものは気になるところで―――…。
「リュウ…に、オレ。あと……『カエ』って誰だ…?」
ケンは静まり返っている廊下でぽつりと呟く。
もしかしたら人じゃなく、何かの会話の一部分だけが聞こえたのかもしれない。
そんなことを少し考えてから、ケンは立ち上がってレンの居る家へと戻って行った。