後片付けも終わり、帰り支度を済ませた二人は外に出る。

世間一般では皆、眠っているであろう時間だが、相変わらずこの街は眠る様子はまだなかった。

そんな街中を途中まで並んで歩く。


「そういや、今日本当何も言われたりしなかったのか?」
「ああ、リュウさん?」
「…“さん”て付けたくねぇ奴だ」
「僕は大して…そんなに気にするケンこそ、なんかあったんじゃなく?」
「……」
「分かりやすいなぁ、ケンは」


口を噤んで顔を逸らしたケンを見て楓は笑った。
その楓の横顔を見て、観念したようにケンが話す。


「いや、オレも別に…ただ、なんかオレとシュウが堂本さんに目を掛けられてるのが面白くないっていう…」


その話を無表情で聞いた楓は伏し目がちにして冷めた口調で答える。


「へぇ。それは怖い」
「男の世界でも、女みたいな僻(ひが)みみたいなの、あるんだな」
「じゃあ余計にケンはレンさんとこにいるの、ばれないようにしなきゃな」
「ああ! 次の休みには引っ越せそうだから大丈夫だろ」
「……そう」


ケンはやはり真面目な性格だな、と楓は思う。
ダラダラとレンの家に世話にならずに、きちんと部屋を探すと宣言した通りにすぐに行動するあたり。

そういう行動力にちょっとした羨望しながらケンの話を聞く。


「この世界にずっといる訳じゃないから…だから余計に早く自立しないとな」
「やっぱり、家には戻んないの」
「どのツラ下げて…大体一度も、誰からも連絡ねぇよ」


ケンはポケットから携帯を取り出して、それを見ながら呟くように言った。


「……でも、向こうも案外そう思って連絡出来ないだけで、気にしてるかもしんないよ」


楓は足元を見ながら小さく言った。
そして顔を上げ、いつもの笑顔で別れを告げるとそのままケンに背を向けて歩き出した。


「…また、オレの話ばっかしちまったな」


その楓の背中を見送るようにしてケンがボソリと言っていた。