「…違います」
楓は足を止め、顔だけをリュウに向けるようにして答えた。
やはり自分を面白く思わないらしい。
楓はそれを再確認すると、リュウとは二人きりにならないのが賢明と判断し、また一歩前に出る。
「どうやって取り入ったんだ?」
バンとロッカーを閉めて嫌味たっぷりの口調でリュウが楓の方を向いた。
楓はその視線に気づいたが、正面から向き合うことはせずに答える。
「…どうやってって…」
瑠璃は自らこの店に来て、自分を指名してくれただけ。
無責任な言い方をするなら、向こうが勝手に自分を指名してくれただけだ。
それを『どうやって』と言われても、答えようがない楓はそのまま黙り込む。
「―――堂本さんに」
「え?」
(―――ど、堂本さん?)
その『取り入った』という相手が客ではなく“堂本に”だとわかって驚くと同時に、余計に何も答えられずにリュウと向き合ってしまった。
その楓の反応にリュウは片側の頬を緩ませて笑う。
「何をして、そんなイイ待遇させてもらってんの?」
「…別に、僕は―――…」
じりじりとその上っ面だけの笑顔でリュウが近づいてくると、楓はふっと視線を下に逸らした。
その時だった。
「こんな、大して苦労もしてなさそうな―――」
「!」
ガシッと腕をリュウのゴツイ手で掴まれ引き寄せられる。
その手を振りほどこうにも、相手は男。
楓は足に力を入れるが、後ずさりも出来ない。
「―――おまえ…」
リュウが驚いたような顔をして、何かを言い掛けた。