「あ、シュウ! はよ!」


静かなトーンで会話していた楓とレンとは違う、明るいトーンで入ってきたのはケン。


「あ。レンさんも! おはようございます」


レンの存在に気付いて、挨拶を付け足すと、レンが身を翻してケンとすれ違うようにドアから出て行ってしまった。

レンが居なくなった部屋には、今度はケンと二人きりだ。


「…おはよう」
「レンさん機嫌よくないカンジ?」


何も知らないらしいケンは、レンが出て行ったドアを見ながら楓に聞く。
楓は少し呆れたようにその問いに答えた。


「“誰かさん”が、レンさんの睡眠の邪魔をしたんじゃない?」
「えっ! オレ?!」


楓に指摘されて、ケンは両手で頭を抱えて顔を蒼くした。


「ちょ、オレ、謝ってくる!」


短絡思考とでも言うのだろうか。
楓はそんな風に思って、バタバタとレンの後を追い掛けて出て行くケンを見送った。

誰も居なくなったロッカー室で、楓は一人鏡と向き合う。


(こんなとこで、何を聞こうとしてたの。…でも、レンさんとはここでしか話せないし)


自分の目を見つめて自問自答をする。

そこに再びドアが開く音がして、楓は我に返って振り向いた。

ドアから姿を現したのはリュウだ。


「お…おはようございます…」


楓の声にチラッと目を向けただけで、返答はない。
沈黙の中、リュウがロッカーを開け、何やら準備をする音だけが暫く聞こえる。

楓はポケットから携帯を取り出し、時間を見る素振りをしてそこから立ち去ろうとした。


「あの客か?」


フンッと鼻で笑うようにリュウが背中越しに言った。