「まぁ、そういいながらレンはまだおれのとこにいるけど。でもケンもお前も多分、すぐおれから離れてくさ」
「…離れてく…」
「ちゃんと自分でな。そういう人間だと思ったから、こうしてるわけだ」
チラリと振り向き、ニッと笑う。
そんな堂本を見て、なんて答えていいか、やはり楓にはわからない。
「そんな…ちゃんとした人間かどうか…」
“自信がない”
楓は心で呟いた。
「おれの観察力を疑うか? これでも元、No.1だぞ。人間見る目は鍛えてきたのに」
(確かに…。出逢ってすぐ、私の苦手なことを把握してたくらいだ)
楓はそう思いながら、自然と顔を上げていた。
「楓」
「はい…」
「お前が自分の考えでやるっつーんなら、別に何にも言わないし引き止めない。まぁ元々そんな権限持ち合わせちゃいねぇけど」
堂本が煙草を取り出しながら、伏し目がちにそう言った。
そして火を点ける直前、楓を見つめる。
「でも、おれに気を遣って言ってることなら、必要ねぇぞ」
そこまで言い切った後、堂本はジッとライターの音を立てて煙草に火を点けた。
「…はい」
赤く光る煙草の先端を見つめて、小さく楓は返事をした。
そしてドアに手を掛け、車から降りる。
「本当、ありがとうございました」
「ま、たまにな。やっぱ心配だし」
「え…?」
「じゃあな」
楓は堂本の言葉を聞き取れないまま、車が発進して行った。
楓はその黒い車をやや暫く見つめていた。
そしてその車の中では、堂本が一人呟く。
「…気ィ遣うとこまで似てやがる」