「あの…ありがとう、ございます」


その頃、もうすぐにアパートに着く楓は、車の中で堂本にお礼を言った。

歩いてもすぐの距離。
それにも関わらず、好意に甘えて送ってもらってしまった。

断ることも迷ったが、ケンと長く居るのもまた、疲れてしまう。
嫌いという理由じゃない。
ただ、“男”と嘘をつく時間が長引くのに、精神的に疲労するからだ。


「ケンと良く一緒だな」
「…なんか向こうが勝手に」
「そうみたいだな。でも“シュウ”として、だろ?」
「もちろん。バレてはいませんよ」


アパートの横に車を停車させた堂本が、ハンドルに片腕を乗せて話を続ける。


「ケンも楓も、なんか似てるからな」


小さく笑って、ミラー越しに目が合う。

楓はその視線にどうしていいかわからなくなって、目を泳がせながらペラペラと言葉を繋いだ。


「家出人、ですしね。ああ。なんか、家、決まりそうな話、してましたよ」
「そうか。さすがに長々レンのとこ置いておけないからな。おれもそんなに別邸持ってないし。稼ぎもそこまでないしな」


冗談混じりに堂本が返す。
それに対して楓は気にしていたことを言った。


「私も、早めに見つけますから」
「…好きにしろ」


その堂本の返答に、自分勝手だが、楓は少し淋しく感じた。

自分にしたら、堂本という存在は大きなもの。
それは男であっても、事実で変えられないし認めざるを得ない。

けれど、堂本にとっては、自分の存在などそこまで重要じゃない。
もしかしたらただの気まぐれで、住まわせたり雇ったりしているのだと。

そう思うと、何とも言えない感情が溢れ出る。