「今日はトクベツ」


堂本が煙草を指に挟んでそう言った。


「え…」
「これ、堂本さんの?」


目の前には高級車。
その運転席に乗り込む堂本を見て、二人は唖然と立ち尽くした。


「…乗れよ」


助手席の窓が開いて、堂本に急かせれる。
するとケンが一歩下がって手を軽く降る。


「そんな…! これ以上、悪いっす」


『これ以上』
それは住まわせて貰ってる、そして、雇って貰ってる、という現在の状況だろう。


「ったく。……シュウ、乗っとけ」


煙草を咥えて頭をがしがしと掻きながら飽きれた姿の堂本は、今度は楓に声を掛ける。

楓はその誘いと、横に立つケンの間で迷ったが……。


「…はい」


そう答えて後部席のドアに手を添えた。


「本当にいいのか?」
「はい。俺とシュウ送るって、遠回りで堂本さん大変ですから」
「そうか。悪いな」
「いえ。お気持ちだけで」


ケンと堂本が会話をしてる間に、楓はそっと車に乗り込んでいた。

二人の会話を車内から聞き、ケンは相当堂本を慕っているのだと感じる。
そしてケンの態度や言葉の端々から、やはり礼儀がわかる、しっかりした人間なのだと再確認した。


「じゃな」
「お疲れ様でした!」


そんなことを心で思っていたら、車が動き出した。
ケンが窓越しに、楓に向けて手を軽くあげる。
楓はそれに対して、同じように、軽く手をあげ、応えた。

小さくなっていく車を見送り、ケンは伸ばしていた背筋の力を抜いて、歩き出そうとした時だった。


「随分といい御身分だなぁ」