(声が聞きたい)
帰宅途中、そう思って堂本から預けられた携帯を取り出した。
最新機種…操作の仕方は不慣れでなかなか思うように使えない。
しかし、発信するくらいは楓にもわかる。
他人の携帯から、私用で使うのに気が引ける。
でも、どうしても―――そう思って“一度だけ”と心で呟いてキーパッドをタッチした。
『…もしもし?』
「ごめん、寝てた?」
『え? 姉ちゃん?』
唯一の家族、圭輔の声が耳から入ってきて、やはり顔が緩む。
『これ、なに? 買ったの? ケータイ』
「え? あ、うん……と、とりあえずね」
『そか。じゃあ連絡しやすくなるな!』
「そう…だね」
つい先程“一度だけ”と誓っただけに、何とも言えない思いになる。
そんなときに、楓は堂本の言っていたことを思い出す。
「あ! 圭輔の電話会社ってどこだっけ?」
『オレ? オレS会社だよ』
「S……あ、一緒だ!」
一度耳から離して機種を確認して、それが同じ会社のものとわかると、楓は嬉しそうに返事をした。
『ああ。同じだと無料になるから?』
「うん、そう」
『だったら先に聞いてくれれば』
「…そうだよね」
そんないつもの姉弟の何気ない話をアパートまでして歩く。
「じゃあ、また。遅くにごめん」
『あ、今度住所メールして。一度姉ちゃんとこ行ってみたい』
「え?」
『…心配なんだよ、姉ちゃんは』
その言葉に嬉しさと後ろめたさを感じながら、「わかった」と答え、電話を切った。
圭輔と話をしていて楓は完全に気を抜いていた。
その楓がアパートに足を入れようとした矢先、後ろから声を掛けられる。