「また元に戻っちゃいましたね」


ガランとした、開店前の店内を眺めるようにしてレンが言った。


「そうだなぁ。なんか長い時間居た気がするけど、ほんの少しなんだよな。あいつらがここに居たのは」


広いソファに足を投げるようにして、寛ぎながら堂本が答える。

浅く腰を掛け、頭に手を組みながらフロアを見ると、今でも楓とケンが賑やかに掃除をしているような錯覚を起こす。

そして堂本は、ゆらゆらと燻らせた自分の紫煙の動向を見ていた。


「菫さんとは……?」


珍しくレンがお節介な心配を口にした。
堂本は「ははっ」と笑って目を閉じた。


「連絡は取ってるけど、会ってねぇな」
「……そうですか」
「なかなかこういう仕事をしてると、悪いことしてるわけじゃねぇのに堂々と会いに行けないもんだ」


「よっ」と声を漏らし、堂本は体勢を起こすと煙草を灰皿に押し付けた。


「それでも、会おうと思えば菫にだって、楓にだって会えるからな」
「……いいですね。そういうの」
「お前もそのうちそういう人間が現れるさ」


伸びをして、席を立つと横にあるイミテーショングリーンが目に入った。

その葉を指で弾くと、レンに言う。


「嘘ばっかついてても、結局最後はバレちまうもんだよなぁ」
「でも、堂本さんたちが吐いてきた嘘は、自分を守るためだけじゃないと思いますから」


自分の言葉に、堂本が優しく微笑むのを見て、レンもまた自然と顔が綻んでいた。

いつものだるそうな口調で、すれ違いざまレンの肩に手を置く。


「……さ。じゃあ、あいつらも引っ越し頑張ってるだろうし、おれたちも適当に頑張るか」
「はい」












*END*