「いーか。よく聞けよ? オレは、楓が好きなんだよ。友達以上にな」


近い距離でケンを見上げると、ちょっと首が痛い。
でも今はそんなことを考える余地もなく、突然のケンの告白に頭が真っ白になる。

まるで電池が切れた人形のように、目を開いたまま動かない楓に、ケンは手のひらを目の前で振りながら声を掛ける。


「――おい」
「……」
「おーい、楓? 戻ってこ、い――――」


楓の顔を覗き込むようにしていたケンが、今度は言葉を失った。

全く動かなかった楓が、急に自分の手を両手で掴んできたからだ。

楓はケンの大きな手を真面目な顔つきで見て、両手で包んだまま。
ケンは意味不明な楓の行動に、あたふたとするばかりだ。

しかし、ケンは手を振りほどこうとは決してしなかった。

あまりに長い時間、ただなにも言わずに自分の手を握る楓に、ようやく出た声で問う。


「か、楓、なにしてんの……?」


すると、その真剣な目を今度はケンに向けて楓が言った。


「ケンに、触ること出来るのかな、って思って」
「は、はぁ?」
「私、まだ完全に男の人が平気になったわけじゃないから……でも、考えたらケンとは二人でいても大丈夫だし、触れられるのかなって」


楓の様子から、からかってるわけでもふざけているわけでもなさそうだ。
まじまじと手を握る楓は真剣そのもの。

ケンは理性を保って、なるべく穏やかに言う。


「ちょ……もう離せ」
「あっ、ごめん」
「……お前、オレじゃなきゃ、今頃そんな悠長な顔してらんなかったぞ」
「え」


そうしてケンはやり場のない高ぶった感情を、自分の手を開閉する動作を繰り返して誤魔化しながら諭す。


「好きだ、っつってんのに――――惚れたヤツに触られたら押し倒したくなるだろ!」
「押しっ……!」
「あー! ちょっとタンマ!」


そう叫んだケンは、楓から体を横に逸らしてなにかを耐えるように、考えるように天井を仰いだ。


「あの、」
「ああ、少し落ち着いた! で、どうだった?」
「えっ?」
「オレに触ってみて、どうだったかって!」
「え?! えぇと……」


楓は少し前に自分がした行動が大胆だったことにいまさら気がついて、少し顔を赤くしながら目を泳がせる。
そしてまだ自分の手に残っているケンの温もりを感じて、小声で言う。


「……その、前向きに……検討してみます……」