あまりに大きな反応をした楓に苦笑してケンが言う。
「意外だろ? でも、やっぱレンさんて、堂本さんと同じで面倒見がいいっポイ」
「うん……そんな感じだよね。なんか話したの?」
「あー……そんなたくさん話はしてねぇけど……でも、言ってたよ」
ケンの話の続きに集中して、楓の雑巾を持つ手は完全に止まっていた。
ケンも荷物をそのまま放置して立ったままで話をする。
「――なんて?」
「『シュウ――楓がDReaM(店)に来てくれて良かった』って。『俺じゃ出来ないことをしてくれた』って、あのレンさんがちょっと笑ってた」
「え……。私、なんかしたかな」
「『堂本さんの目が生き返った』らしいぞ?」
「生き返った――――……」
その言葉を聞いて思い返す。
きっと堂本は、生きる理由がないままいたのかもしれない。
いや、本当はその理由があったのだけど、ずっとその想いを閉じ込めていたから。
それが今、おそらく解放されて、自分の気持ちに嘘をつかずにいられるから。
だから、レンには堂本の瞳に、本来の光が戻ったのだと感じたのだろう。
「それなら、良かった」
柔らかな陽射しが窓から差し込み、それを直に受けてる楓が優しく微笑む。
そんな楓を見て、ケンは薄っすらと頬を染める。
「……オレも」
「え? なに?」
「オレも、楓に会えて良かったんだけど」
「えっ。な、なに? 急に……」
「まさか、前にオレが言ったこと、忘れた?」
座っている楓の高さに合わせるように、ケンはしゃがみこんで顔を覗き込みながら聞いた。
真剣な目を向けられて、楓は必死で考える。
そして、思い当たることがひとつ。
「あ……あの、『どんな楓(私)でも』――ってやつ……?」
『オレはどんな楓でも好きだ』
ついこの間、確かにそう言われていた。
けれど結局楓の中では、女性としての告白というものではなく、一人間としてだと勝手に受け止めていた。
「――楓。お前、それ、勘違いしてねぇか?」
「え」
「あー! やっぱり……」
ケンががっくりと項垂れて、その場に腰を下ろした。