心なしか、圭輔の楓を掴む手の力が若干緩む。
そしてその手に視線を落として、圭輔はさらに続ける。
「オレたちの環境って、世間では大きな声で言えないし、特殊だと思う。
姉ちゃんの母さんはDVされてたり、病気で死んじゃったり…。浮気相手のオレの母さんはオレを置いていなくなって。
それからオレと姉ちゃんとあいつで暮らしてたけど。
でもそれを利用して、オレは姉ちゃんと一生二人で生きていくのも悪くないって考えたりした。
……卑怯だよな。ヒーロー気取りでさ。狭い籠の中に姉ちゃんを閉じ込めて」
苦しそうに作り笑いをしながら話をする圭輔を見ると胸が痛い。
だけど、なんて声を掛けるのが正解なのか、まだわからない。
楓はまだ答えが見つからないまま、ただ息をしていた。
ゆっくりと顔を上げた圭輔は、楓を見るのではなく、横に設置された灰皿を見た。
「……姉ちゃんが堂本さんを見てるの見て、正直面白くなかったし、焦ったよ。でも、姉ちゃんが惹かれたワケ、上手く説明は出来ないけど、なんとなくわかったから。
姉ちゃんが前を見てんのに、足引っ張りたくないから」
そういうと、圭輔は掴んでいた手をぱっと離した。
そして両手を開いて見せながら言う。
「“自由になろう”。世界は広いんだもんな。きっと、違うものが見えてくるはずだよな」
その両手のひらに、楓は自分の両手も合わせる。
近い距離から圭輔を真っ直ぐに見つめて、にこりと笑う。
「……ありがとう。圭輔の気持ちに応えられない――――けど、この温もりは同じ。姉弟だから、きっとずっと一緒に居られる」
重ねた手のひらの温かさをお互いに感じる。
「ここから、リスタートさせよう。私たち」