「ごめんね! 毎回毎回色々付き合わさせて、巻き込んで……」


頭上にある白い光が右に移動してくるのを見つめて楓が呟いた。
その背中を見つめて、「いや……」と短く答える。

ランプが4を通過した時に、くるりと楓が振り返った。

驚いた圭輔が見た楓の顔は、嬉しそうに笑っていた。


「でも、ハッキリしてよかった! それにあんな男だけど、圭輔と姉弟になれたのはやっぱり嬉しいし……半分だけだけど、圭輔と本当の姉弟で良かった!」


明るく言い終えたタイミングで、迎えのエレベーターの音がする。
その合図に、楓は再び圭輔に背を向けて、一歩踏み出そうとした時だった。


「――――ごめん。少しだけ……聞いてくれるだけでいいから」


その声は、いつもの圭輔のハキハキとした張りのあるものではなく。
少しトーンが低めの、か細い声だ。

そして、前に進もうとした体が動かないのは、圭輔の熱い手に、左手首を掴まれているから。

今まで聞いたこともない声に振り返ると、見たこともない表情をした圭輔がそこにいた。


「どうしたの?」と問い掛けたい気持ちはあるのに、あまりに突然の出来事に声も出ない。


ただただ、驚きを表わした瞳を向けていると、真剣な面持ちで圭輔が一言伝える。


「一度だけ、言わせて。――ずっと、好きだった」


ウィーン、と開いた扉が閉まっていく音の中、聞こえた告白。
掴まれている手が熱い、と先程まで感じていたはずなのに、今はそれも感じない。

頭の中が真っ白になるだけで、手も足も唇も――瞼さえも動かない。


「……軽蔑する? でも、物ごころついたときから、姉ちゃんはずっとオレの“特別”だったんだよ」


楓がなにも言わないと、そのホールの空間は圭輔の懺悔をする場のように、一人で言葉を繋げていく。


「ずっと守って、ずっと一緒に居られたらいい。そんなこと、思ってた。
小さいときに母親に連れられてきたあの家に、姉ちゃんはいた。本当は色々と我慢しているのに、オレにすごく優しくしてくれて嬉しかった。
産まれて初めて、“心が安らぐ”って感じられたのは姉ちゃんの隣だったから」