ガチャッという音が後方からした後、「失礼します」と続けて聞こえた。


「お待たせしまし――――あれ?」


駆け足で二人の元に行く楓は、密着した状態を見て目を丸くする。

それで焦っているのは圭輔だけで、堂本は堂々としたもので、未だに軽く肩に手を置いたまま。


「あの……二人で、なにか……?」


足を止め、首を傾げて楓が問う。
すると、なにも答えられない圭輔に代わって堂本が口を開いた。


「いや。こいつがおれを褒めるから」
「え?」
「褒める……?」


堂本が切り出した答えに、圭輔までも驚いた顔をして声を上げる。
聞き返す楓の言葉に、堂本は深く頷き、こう続けた。


「なんか、『堂本さんの話は説得力があってタメになる』っつーからよ。ちょっと嬉しくなって、こう」


そう言って堂本は、離した手を再び圭輔の背中に回して肩を抱く。

冷静になってから、堂本と密着することに違和感を覚える圭輔は慌てて体を離す。
そして顔を近づけていた堂本に小声で反論した。


「ちょっ……『タメになる』とまでは言ってません!」
「あ? カタイこと言ってんなよ。それより時間少しやるから頑張れよ」
「えっ」
「“善は急げ”だ」


ぼそぼそと二人が会話を交わしているのを、不審そうな目で見つめている楓に、堂本が言う。


「楓。もう遅くなったから送るぞ。圭輔も一緒にな。車取りに行ってくるから二人一緒に脇道で待ってろ」


そして堂本は身を翻す時に圭輔にアイコンタクトを送る。

目を白黒させたまま、棒立ちしていると、あっという間に堂本はエレベーターに消えていってしまった。


「……圭輔も堂本さんのこと、結構頼れると思ってるんだ」
「いや……どうなんだろ……でも、まぁ嫌いじゃない」


二人きりになって、楓が圭輔の隣まで歩み寄ると、微笑みながら言った。
楓をちらりとみて、足元に目を逸らすと、頭をかきながらぼそっと返事をする。

その返答に、さらに笑顔になる楓は、エレベーターのボタンを押した。