「どうした?」
「あ……あの、これ、渡しそびれたのでちょっと戻ります!」
楓が指したのは、手に持ったままの開封済みの桜の手紙。
見上げた楓に、堂本は顔をくしゃりと崩して笑う。
「ったく。お前は律儀だな。別にいいんじゃねぇ?」
「でも、やっぱりお母さんがあの人に宛てた……星見さんを想って書いた、最後の手紙だと思うから……」
両手できゅ、っと大切そうに持った写真の中で笑う桜を見て楓は言った。
そしてチラッと堂本の顔色を窺うと、楓をみて小さいため息を漏らした。
「行ってこいよ。待ってるから」
「はい……!」
「待ってる」と言われた楓はその言葉がなんだかとても嬉しい。
自分にも待っててくれるひとがいる気がして。一人じゃないと実感出来た気がして。
くるりと背を向け、先ほど出たドアをノックし、楓の姿が見えなくなった。
もう、すぐ前にあるホールに灰皿があるのを見て、堂本はそこへ行き壁に寄りかかる。
そして、いつもの手つきで煙草を口に咥え、火を点けるのに顔を僅かに傾げたときだった。
「堂本さん」
「ん……?」
声を掛けた圭輔は、動かずに少し距離を取ったところで立ち止まっていた。
軽く拳を握り、廊下の碁盤の目に敷かれたタイルを見つめて言った。
「……堂本さんて、もしかして……この前話してくれた“姉”って、本当の姉弟じゃないんですか?」
「……ああ。いわゆる連れ子同士ってヤツだ」
右手に握ったシルバーのジッポを、火をつけずに煙草の先から離して言った。
圭輔は失笑する。
「やっぱり……。さっきの、あの人が話しているときに、『孝子』という人と『由樹』って、堂本さんの名前しか言ってなかったからおかしいな、と思ったんですよね……」
圭輔の渇いた笑いが、まるで時間が止まったかのように静かなフロアに聞こえた。
そして握っていた自分の拳をゆっくりと広げ、手のひらを見つめながら続ける。
「“同じような人間がいるんだな”って、この前の堂本さんの話を聞いて思いました。けど、“似ている”だけで、やっぱりオレと堂本さんは違う」