(あれを…やんなきゃだめなの?)
未成年だが年齢を偽った楓は、うまいことまだお酒を口にしていなかった。
そんな楓は、お酒の力を借りてもあんな風に声をあげて楽しそうに踊るような…そんな芸当が出来るなんて思えなく、愕然としていた。
「お前、別にこの道で行こうとか、そういうんじゃないんだろ?」
「えっ?」
「オレもそう。結構いるよ、そんな考えのやつら。そういうタイプはコールん時、後ろの方で手だけ叩いてたりするよ…っと。やべやべ! 戻るか!」
一方的に色々話した男は素早く自分のテーブルへと戻って行った。
楓も同時にレンの元へと急いだ。
既に席についてるレンと、機嫌が直ってる客を見て、ほっとしながら目立たないように脇に立った。
「レンは今月どう?」
「さぁ…どうだったかな」
「遠慮しなくていーのに。マサキのとこよりもイイボトル、入れるわよ?」
意中の男といる女というものは別人のようだ。
楓は冷静にそんなことを思ってお酒を作っていた。
そんな女に何も言わず、ただ静かに微笑むレンは、周りのホストとは何か違うと、素人ながらに思う。
「あ。レンがコールしたがらないってウワサ、ほんとなの?」
恐らく、普通は「ボトルを入れる」と聞けば騒ぎ立て、ガツガツ行くところをそうしない。
客の間でもやはり何か変わったように映るのだ。だからそれが“ウワサ”となって、女の耳に入った。
「レイカちゃんが『したい』なら喜んで」
「えぇ〜? “あたし”なら…?」
ホスト通いをすると、盲目にもなるんだろう。
そのレンの普通とも取れる言葉が、女にとっては“自分だけ”という特別な思いになってしまう。
「…レンに任せたい、な」
女はそっとレンの腕に触れて、上目遣いで甘えた声を出した。