「きみが想像しているのは、一般的にありうることだよ」
「――――じゃあ、やっぱり……」


楓が答えに辿り着いたかと思って、写真から目を逸らす。
しかし洋人は首を横に振った。


「……いや、だけど、何もなかったんだよ。彼女は意識がなかったから、もしかするとそんな勘違いをしたままだったから、あんなことを言ったのかもしれない」
「『あんなこと』?」


堂本が眉間に浅くシワを寄せて、聞き返す。


「『この子は父が誰であろうと、“川合桜”の子としてこれからも変わらずに大切に育てる』。そんなことを桜は言っていた……きみは私が本当の父親だと思ってここに来たんだろう?」
「え……? は、はい……」


まるで証人にでも問うような口調で洋人は言うと、楓は口ごもりながら答える。
それを聞き終えてから、洋人はおもむろに腰を掛けて口を開く。


「彼女を成宮正信から円満に引き離そうとした頃に、妊娠がわかった――――誓って言うが、本当に彼女に触れたことすらない。だから、きみは正真正銘、成宮と桜との子どもだよ」
「――――そう、ですか……」
「彼女が純粋過ぎて、酔った勢いで――なんて、とてもじゃないけど出来やしなかったんだ。それだけじゃなく、由樹や孝子のことだって、都合がいいかもしれないが頭にあったからね……」


洋人はギッと背もたれに寄りかかり、しかし顔は少し俯いていて弱弱しく見える。
堂本が、鼻で笑って言った。


「ほんと、都合いいったらないな。でも、現実に罪は犯してないラインだし、さすが弁護士、うまくやるもんだ」
「どんな嫌味も受け止める。しかしそれが私の真実だ」
「あの……母は、なんて言っていたんですか? なんで籍を入れたりしたんですか? あの人と一緒になんかならなければ、体を壊すことなかっただろうし、私なんて……産まなくても」
「楓!」
「それは違う!」


楓がそこまで言ったとき、堂本は楓の肩を掴み、洋人は背を預けていた体勢を前傾姿勢に変えた。

そして洋人が肘掛をグッと握って、必死に説明する。


「きみは疎まれていたんじゃない。少なくとも桜には、心から望まれてきた命だ」
「だけど、居なかったら違う未来が」
「きみが居たから、彼女は強くなったんだ。きみに会いたくて――きみと手を繋いで歩きたくて」


自虐的な思いの楓は、まだその洋人の言葉に半信半疑だった。
“自分”という存在に、唇を噛み、手のひらに爪痕を残すほど力を入れる。