「責める気なんて、これっぽっちもねぇけど。けど、そう言うってことは、離婚の原因にまでなった女(ひと)ってことだな……」


親子で同じような女性に惹かれるなんて。

そんなことを堂本はふと思ったが、すぐに心で失笑した。
親子だからこそ、好みの女が似ているのか、と。

でも、顔立ちだけで好きになったわけではない。
それの証拠に、楓に対しては菫を思い出させたとしても、同じ感情を抱いたことはないのだから。


「ああ。でも……もうずっと、会ってないぞ」
「知らないのか」
「?」
「会ってなくて当たり前だろ。彼女はもう――いないんだから」
「……え?」


堂本が桜について知っていることにも驚いたが、なによりその内容に洋人は目を大きくさせた。

洋人が最後に桜に会ったのは10数年前。
桜が病で伏す前のこと。

あえて、現在どうしているかなどを調べることをしていなかった。

いつまでも引きずっているのは自分だけだろうし、知ったところでどうすることも出来ないだろうと考えてそう決めていた。


「いつ――――桜は……」
「さぁ……もうだいぶ経つんじゃねぇのかな」
「……そうか……由樹は、なぜそれを」


今度は堂本に代わって洋人が質問をした。

『なぜ』と問われて堂本は少し黙った。

ビルの外を走る車の音が二人の間に聞こえてくる。

いよいよ堂本が口を開こうとしたときに、背後のドアの向こうで足音が聞こえ、近くで止まった。

堂本はドアから洋人に視線を戻し、無言で訴える。
しかし洋人もその足音に心当たりはなく、黙って首を横に振った。

するとノックの音が響き、二人は同時にドアに視線を向けた。