ケンに続いて菫も席を立つ。
次第に笑顔になる菫は、堂本に言った。


「久しぶり。由樹、変わらないね」


間柄について知っている楓は驚きはしない。
ただ、言葉に表しようのない思いで二人を見つめていた。


「そうか? 菫は老けたな」
「……仕方ないでしょ」
「ふ。冗談。変わってねぇよ。ああ、でもやっぱ、大人になった」


二人の会話には、やはり二人にしか通じないような空気が漂っていて……楓は切ない気持ちでその場所に居るだけだ。

ふ、と、堂本と目が合う。

それだけで、ドキンと心臓が跳ね上がるのだから、やはりこの想いはまだ進行形であって、まだ過去にはならないのだろう。


「それで、どうして楓とケンが?」
「えっ……由樹の知り合い……?」
「ちょっとな」


大体の状況を理解しているのは楓と堂本。

楓は気を遣って席を立つと、ケンを引っ張って頭を下げた。


「あのっ……突然すみませんでした。私たち、用事があるのでこれで」


バタバタと、楓とケンはそのカフェを後にした。

ケンの手を引きながら、行き先も決めずにただ道の続く限り歩く。
頭の中で、菫の話を整理して、今いる二人を想像しながら……。


「楓」
「……」
「楓!」
「あっ、ごめん!」


ようやくケンの呼び声に気がついた楓は足を止めてケンを見た。

ケンは怒ってはいないが、説明して欲しそうな視線を向けている。
察した楓は、目を泳がせながらたどたどしく話し始める。


「あの菫さんて人、堂本さんの義理のお姉さんで……もう何年も会ってなかったんだって」
「え?! 堂本さんの?! てことは、さっきあの人が言ってた『弟』ってのが堂本さん?!」
「……そういうこと」
「で、楓がその菫さんて人と従姉妹ってことは、堂本さんともイトコになるのか?!」
「……それはわかんないけど」


そう。菫の存在が自分の従姉妹と聞いてから思っていたこと。

堂本は自分の遠い親戚になるのか、と。
それにしても血の繋がりもない親戚なのだから、もしなにか関係があったとしても問題はないはず。

けれど、その事実が余計に自分の淡い恋心を傷つける。