「こんな偶然もあるものね」
楓とケンは、そのカフェに入店して、菫と向かい合って座っていた。
柔らかい雰囲気の菫には、警戒心を抱くこともない。
ただ、さっき言われた『従姉妹』ということが引っかかって、楓は口数が少なかった。
「ほ、本当に? 楓の従姉妹なんですか?」
「ええ。楓ちゃんのお母さんの桜さんと、わたしの母、紅葉(もみじ)は姉妹だと聞いたから」
「楓、本当か?」
「……たぶん。姉がいるっていうのは聞いたことあるから」
なによりも、遺伝子がそれを証明してる。
楓は向かい合って座る菫の顔を見てそう思わざるを得なかった。
まるで在りし日の母と、対面している錯覚に陥りそうになるのだから。
「わたしも知ったのは本当に最近なの。職場にある人が訪れてね。わたしを見て、さっきの楓ちゃんのように驚いてたわ。その人も桜さんを知っていて割と親しい印象を受けたけど……」
「お母さんを知ってる人……?」
楓は母を思いだして首を傾げる。
楓の記憶には、母と親しい人間がいるなんてことはない。
大体肉親である、姉の名前がすら聞いたこともなく、知らなかった。
だから楓は、その“ある人”が気になる。
「桜さんの娘だからいいかな。その人は星見さんていう男の人なんだけど、その人は桜さんのことを『クライアント』と言ってたわ」
「クライアント?」
「星見さんは弁護士なの」
星見という弁護士に、何かを依頼していたらしい母。
なにがなんだかわからずに楓の頭の中は混乱していた。
「そして、わたしの弟の本当のお父さん」
「弟……の」
「ね。不思議な縁でしょう?」
(『弟』って――――つまり、堂本さんの実父が、お母さんと繋がってたってこと⁈)
「楓?」
その声にはっとする。
「ど、堂本さん⁈」
一番に反応したのはケン。
勢いよく立つと、指をさして言った。
「ど、どうしてここに!」
「お前らこそ――――」
堂本もケンと同じく驚いた声を出す。
すると堂本に背を向けるようにして座っていた菫が振り向いて、見上げた。
「……由樹?」
「……菫……」