楓は女性を凝視していた。
同じように、向こうも楓を見たまま視線を逸らすことをしない。
その女性――菫は楓の記憶の中の母にそっくりだった。
楓の母――桜は、30という若さでこの世を去っている。
そして菫の歳も同じ30。
だから余計に似て見えてしまう。
張り付いたように足が動かなくなった楓に菫の方から近づいてきた。
「こんにちは」
「あ……こ、こんにちは……」
菫の方が、歳の功か気さくな感じに話しかけていく。
楓は未だに目の前の菫に動揺したまま。
しかし頭の片隅で、“もしかして”と思うことがある。
母に似ている、ということは、自分にも似ているということ。
つまり――――。
「図々しくごめんなさい。あなた、わたしと似ている気がして驚いて……わたしは菫です。よければあなたのお名前は?」
(す、『菫』‼ やっぱり……! )
「あっ……の、私は……成宮――」
「『成宮』⁈」
楓は、お互いの顔が似ていることよりも、『成宮』という名前に反応した菫に驚いた。
目を見開いて動かなくなった菫に、今度は楓から話し掛ける。
「知ってるんですか? 成宮の人間を」
すると、“信じられない”といった表情で、菫は答えた。
「もしかして、成宮桜さんという人を、知ってたり――?」
それを聞いて、今度は楓が呆然とした。
返答がない楓に、菫は勘違いだったのかと思い、謝ろうとする。
「あ……ごめんなさい。ちょっと、最近その名前を耳にしたもので、」
「母の名前です……成宮桜は」
「……! やっぱり……」
二人の会話に全くついていけないケンは、交互に顔を見るだけ。
菫が僅かに口元を緩め、楓に言った。
「初めまして。わたしはあなたの従姉妹
です」
楓は今までの人生の中で、一番衝撃的な告白だった。
「い、従姉妹⁈」
楓に代わって驚きの声をあげたのはケン。
楓は言われてることを、すぐに理解出来ずに、ただそこにいる、母に似た菫を見上げるだけだった。