「――――な、んのこと……すか」
「あんたが、彼女を好いてるってすぐわかる」


間髪いれずに、断言されたケンは閉口した。

相変わらず、独特の雰囲気を持つレンには、隠し事も通じそうにない。


「なんでシュウは気付かないのかが不思議なくらいだ」


レンがそう続けると、ケンは“そんなにわかりやすいのか”という思いと“それでも気付いていないのか”とも感じて項垂れる。


「まぁ……自分の想いでいっぱいいっぱいだから、周りなんて見る余裕ないんスよ、楓は」
「……さすがに気付いてたか」
「そりゃわかりますよ。それだけオレも、あいつのこと見てるんですから」
「堂本さんが、シュウを受け入れることはないと思うけど……でも俺は、何かかわる気がする」


レンは店の大きな入口の扉を見て言った。
ケンはレンの言うことが何を指しているのかイマイチわからず、バケツを持つ手に力を込めて、恐る恐る聞く。


「『変わる』……って、何がどういうふうにスか……」


ケンの問い掛けに、レンは目だけをチラリと向け、またすぐに前方の黒い扉を見る。
そして少しの間、目を閉じ、何かを考えるように立っていた。

ケンは逆に瞬きもせずに、レンの答えを待つ。

そして、催促しようかと一歩踏み出し、バケツの水が波打ったときに、レンが言った。


「――いや。具体的には俺にもわからない。でもシュウは……彼女は、堂本さんにとっても、意味のある出逢いのような気がするんだ」
「それって、つまり……?」
「だから、俺にも結果まではわかんないって言っただろ。ただ、俺はこの出逢いが必然なら――まだ、彼女を辞めさせるわけにいかないんだ。
ケン。その想い、普段は出すなよ。リュウがいなくても怪しまれる」


最後は一方的に言って、レンはスタスタと店から出て行ってしまった。


「オレだって、“必然”だと思ってる……」


汚れた水がゆらゆらと、照明を鈍く反射させているのを見降ろして、ケンは呟いた。