ケンと二人でフロアに残る楓は、黒く光るソファを拭き終える。

立ち上がり、ソファ全体を確認しながら、テーブル同士の仕切りにもなっているイミテーショングリーンを何気なく見つめた。

“イミテーション”。

まるで、ホストクラブ(ココ)にいる自分のようだ。

色々とあった一日を、ぼんやりとそれを見ながら思い返す。
緑色を映していた視界の隅に、黒いものが介入してきて、はっ、と顔を上げた。


「あっ……お疲れ様です!」


見ると、そこには堂本の姿。

しかしいつもと雰囲気が違って感じた楓は、堂本の顔色を窺うように見上げた。


「ちょっと時間いいか」
「え……」


楓は堂本の誘いに、ケンをちらりと見た。
ほぼ片づけは終わっているが、抜けていいかどうかの確認のため。

するとケンも堂本が姿を現した時から、気が付いていたようで、軽く二度頷く。


「はい。大丈夫です」
「悪いな。ケン、借りてくな」


身を翻しながら堂本は言って出口へ向かって行った。

今日、この背中に守って貰った――。

そんなことを、ぼんやりと思い返す。


「大丈夫か?」
「あっ、は、はい! すみません」


振り返る堂本の元に、楓はイミテーショングリーンを横切って駆けて行った。


「――見過ぎ」


もう誰もいないかと思っていたはずの室内で、急に声がしてケンは驚き振り向いた。


「レ! ンさ……ん。帰ったはずじゃ……」
「忘れ物取りにきた」
「あ……そうすか」


しんとしたフロアにレンとケンの二人きり。

ケンは少し前までレンの家に居候していたのに、やはり二人きりという空気は未だに慣れない。

用事は済んだはずのレンが、動こうとせずにケンを黙って見ている。

ケンはあたふたしながら、何か会話を……と、懸命に考えていた時にレンの口が開いた。


「あんた、わかりやすいから……シュウがまだ店にいるうちは、気をつけろよ」