「いらっしゃいませ。ようこそDReaMへ」


丁寧なお辞儀に、未だ恐縮しながら会釈をして店内を見回す。

手前のテーブルの脇に立っているケンを見つけると、そこでピタリと止まった。


「どうかされましたか? お席はあちらですが」


エスコートされている途中で足を止めると、不思議そうに首を捻りながら言われる。

「はい」と返すも、ケンが気になり、視線を残しつつウエイターに着いて行く。
いよいよ諦めて前を向こうかと言うときに、ようやくケンがその視線に気がついた。

しかし言葉を交わす距離にはいないために、お互いに軽く頷くだけで、一番遠いテーブルに着いた。


「瑠璃様。ただいまシュウをお呼び致しますので、もう少々お待ち下さい」


案内をした男が片膝をつき、再び深く頭を下げて去って行った。
それからすぐに、瑠璃の元に楓がやってきた。


「瑠璃……。来て、くれたんだ……」


瑠璃の来店に驚いた楓は、目を大きく立ったまま言った。

瑠璃はソファからスッと立つと、長身の楓を見上げる。
そしてじっと顔を見つめると、ニコリと笑って答えた。


「『また来るね』って約束したじゃない」
「え……? あ、ああ。そうだけど……でも」


無垢な笑顔はいつもと同じ。

けれど、楓はケンから聞いていた。


『そういや思い出した。オレの、血が滲んでた口元をハンカチで抑えてくれたのって、“シュウの客”だ』


よくよく聞けば、ケンと絵理奈は込み入った話もその場でしていたようだった。
すると、必然的に瑠璃は知ってしまったはず――。

“シュウは女である”ということを。


「とりあえず、座らない? 二人とも立ったままだと目立っちゃう」
「そ、そうだね。ごめん」


楓は瑠璃に言われて、革張りのソファに浅く腰を掛けた。

隣に座る女の子は、間違いなく瑠璃だ。

でも楓には、少し違って感じた。

おどおどとして、いつも自分に自信がなさそうに話をしていた彼女。
それが今は、ぴんと背筋が伸びていて、顔を上げてこちらを見ている。

それでもやはり、瑠璃の顔からは“騙された”という怒りや悲しみのようなものは一切感じられない。

楓の頭は疑問符しか浮かばなかった。