「そんなことがあったなんて!」


いつも早めに出勤してくる遠藤に、レンが報告をする。
その驚きの反応をちらりと聞きながら、楓とケンはフロアを掃除していた。


「なんだよ。堂本のやつ……みずくさいな。もっと早く言ってくれればおれもフォローしたのに」
「なるべく大事(おおごと)にしたくなかったんじゃないんですか」
「まあ……あいつらしいけど」


話を聞いて、開店準備も手がつかないほど驚いている遠藤の横で、レンはホストファイルからリュウの写真を抜く。


「――遅かれ早かれ、こいつはこんなことになりそうな感じしてましたし」


サラリと言いながら、足元のゴミ箱にそれを放る。

いつでもクールなレンを見て遠藤は苦笑した。


「レンは出会ったときから、ドライなやつだよなぁ」
「……他人は所詮、他人ですから」
「こわー。お前を手懐けた堂本ってほんとすげぇわ」


そんな話をしてる最中、フロアから「いてぇ!」と悲鳴が上がる。

どうやらケンが意地を張って病院に行かないのを、楓がワザと体に触れて、『ほら、言ったこっちゃない』と証明しているようだ。

和気あいあいとした二人を見て、遠藤がハッと気付いてレンに言った。


「ちょ、あいつ! シュウってまだ働く気か⁉」


その指摘に、レンは受付から屈託ない笑顔を見せている楓を眺めた。
横では遠藤が辺りを気にして、「女の子なんだろ?」とレンに耳打ちする。

するとレンが「ふ」と一瞬笑って答えた。


「もう少し、やり残したことがあるんじゃないですか? まぁ、結局は堂本さん次第ですけど」


遠藤にはその理由の検討もつかなくて目をぱちぱちさせる。
それと同時に、“あの”レンが笑ったことにも驚いていた。


「かえ……シュウ! いーかげん……!」
「そっちこそ。いい加減認めて病院行ったら?」


この日の開店準備は、オープンしてから一番賑やかな準備時間だった。