本当は、警察にでも突き出した方がよかったのだろう。
被害に遭ったのは自分だけだが、腐った性根は今さら更生が望めない。
年齢が年齢だけになおさらだ。
「とりあえず店まで戻る。色々と報告しないと」
レンがスタスタと先を歩き、行ってしまう。
暗い思考になり掛けた楓は、バッと顔をあげてレンを追う。
目の前を行くレンも、過去堂本が“拾った”と話していた。
今も堂本の側にいる彼は、きっとなにかの事情があって、それを抱えながらここに立っているのかもしれない。
なにがあったのかなんてわからないし、聞くことも出来ない。
けど、そんななか、しっかりと地に足をつけて立っているレンを見て思う。
――自分も、負けない。
自分自身はもちろん、大切な人を守るために強くなろう。
何度も何度でも、立ち上がって前を向けばきっと光が見えるはず。
楓がひとり、心に誓うと、目の前には一服する堂本の姿が目に入る。
なんら変わらない堂本を見て、胸を撫で下ろした。
「お。レンも一緒か」
まるで何もなかったかのような堂本の呑気な声に、楓は力が抜ける。
「さっき一緒になりました。前から言ってたとおり、リュウは追放。あとケンをヤったヤツらは、これから」
「多分、もう顔出さないだろ。すぐに知れ渡る。しかしレンの“カン”てのは毎回当たるなぁ?」
「嫌な予感しか当たらないですけど。それより堂本さんの方は……」
堂本とレンの会話を一歩下がった場所で聞いていた楓とケンと圭輔は、堂本がレンの質問に答える瞬間に集中する。
ゆっくりと煙草を吸い、紫煙を吐き出す。
ふわりと空へ立ち上る煙が分散して、全てが消えたのと同時に、堂本の口が動いた。
「二度と、楓の前に姿を見せないと約束させた」
「ほっ、本当に……? まさか、そんな簡単に――」
堂本の言葉を聞いてすぐ、反応したのは圭輔だ。
ケンを支えていたのも忘れて、その手を離し、堂本に近寄る。
「本当。誓約書も書かせた」
ぴらっと、内ポケットから出した一枚の紙を圭輔の目の前に出す。
圭輔がそれを手に取り、署名の筆跡を確認する。
「ま、そんなもん、ただの紙切れで、法的にはなんの効力も持ち合わせちゃいないんだけどな」
「えっ。そうなの⁈」
驚く圭輔を尻目に、堂本は楓を見つめた。
「楓」