「多分、大丈夫だと思うけど。開けてみろ」
足を組んでテーブルに肘をつきながら堂本がそう言い、楓は言われるがまま箱を開ける。
「あ!」
そこには今、楓が着ているものにピッタリの紳士靴が入っていた。
そのまま床に並べた靴に足を入れてみる。
「コレ…! どうして…」
サイズはほぼピッタリ。
それに驚いて屈んだまま顔を上げる。
「昨日、アパートに行ったとき。玄関の靴みてな」
その言葉に、あの出逢った日の女性の言っていたことを思い出し、納得する。
『さすが。気が利くわね』
男は気が利かない生き物だと思っていた。
そんな楓の考えを覆された感じだ。
「身なりは上等。あとは仕草とか、喋り方…成りきれよ?」
「はい」
「お? なんか雰囲気変わったか」
「…そうですか? ただ、もう決めたから…」
そう堂本を真っ直ぐと見据え、背筋を伸ばして答えた姿は吹っ切れたものだった。
「あとは、名前か」
「名前?」
「お前、“楓”でやる気か? まぁ別に男でもおかしくないけど」
堂本が新しい煙草を開けながら言った。
楓はそう言われたら、本名だと何かあってバレても嫌だな、と考えていると堂本が提案する。
「“シュウ”なんてどうだ?」
「シュウ…?」
「別になんでもいんだろ」
「…本名じゃなければ」
「じゃあ決めるぞ。シュウ、お前は今日からレンに付け」
「…レン?」
急に決まった慣れない名を呼ばれ、知らぬ男に付けと言われ困惑する。
「あ? レンに会っただろーよ」
ピンとこないと言わんばかりの顔をしていた楓に堂本が不思議そうに紫煙を吐き出しながら言った。
「え? あ…あの人が、レン―――」
思い出すように視線を落として楓が呟くと、堂本がバサッと何かテーブルに広げて見せた。