「なんでっ……」


驚いて声を漏らしたのはケンだが、楓も同じように驚き、レンを見た。


「俺の力じゃない。堂本さん――と、そのバックにいる人たちの力」
「堂本さん……って、一体……」
「堂本さんはこの世界に入って約10年……かなり顔が広い。上の人間にも気に入られているから、同じ年齢のやつと比べて力がある」


レンは街の方向に視線を向けながら、珍しく流暢に話をする。


「俺が知ってるのは5年間の堂本さん。それより前のことは少し話で聞いた程度……でも、俺が堂本さんにお世話になり始めてからも、どんどん登りつめてった。そういう人」


過去を思い出しているレンの横顔を見ながら、楓は堂本を想う。

レンが見てきたという5年間。

でもきっと、それよりももっと前に、姉である菫との何かがあったのだろう。

そんな過去(むかし)のことを、未だ抱えている堂本の心は一体どうしたら解放されるのか。

楓は最近感じていたことがある。
堂本の姉である菫に似ているらしいと知ったときから。

堂本が自分に笑いかけるときの顔が、優しく、そして切ない瞳を向けられている、と。

自分の想いが成就することは求めていない。

ただ、堂本(彼)の幸せを願いたい。
そのときの時間を、ほんの少し共有出来れば、それだけで――――。


楓がひとり、何か心に誓っている様子を、横でケンが見ていた。


「じゃあ、今頃あの男は――……」


何処から何処まで、現実のことなのか、と戸惑う圭輔がレンにいうと、レンは少し間を開けて答えた。


「暴力はない。いや……言葉の方は、ちょっとあるかもしれないけど。多分、強面(こわもて)の人たちに囲まれただけで、すぐに逃げ出すんじゃない」
「……ああ。あいつならあり得る。弱いものには強く出て――長いものには巻かれろ的な、卑怯な人間だからな」


レンの言うことに圭輔がそういうと、楓は黙ったまま聞いていた。