「ケンて人、なんかあったの?!」
「わかんない。けど、早く行かなきゃ!」


圭輔と一緒に走りながら、楓は着信履歴から【ケン】をタップして発信しなおした。


「……繋がらない」


携帯が繋がらないことに不安を煽られた楓は、血相を変えてリュウに連れて行かれた方向へと駆ける。

ひとつめの曲がり角で、出逢い頭に激突して跳ね飛ばされてしまった。


「姉ちゃん!」


尻もちをついた楓は目を細めて痛みを堪える。
そして、ぶつかった相手の靴を見ながらあやまろうとした時だった。


「楓! 悪い! 大丈夫か?!」


そう言って手を差し伸べるのはケン。
ぶつかった相手がケンだということに、驚きながらも、無事だったのだとホッと胸を撫で下ろした楓は、手を重ねる。


「ケン! 今の電話……!」
「あ! ああ。悪い! もしかして折り返してくれた?」
「うん。でもコールすら鳴らなかったから」
「や、楓に電話したあと、急いでて……」


ケンは苦笑しながらポケットに手を入れ、携帯を楓に見せた。


「うわ……」


先に反応したのは圭輔。

ケンの手にある携帯は、ディスプレイが見事にひび割れて、なにも映し出していないものだった。


「うっかり走って落としたら、こんなことに……」
「――――バカ。……でも、ケンが無事でよかった……」
「ああ、オレは大丈夫……うっ」


楓がそう言って、ケンの手に引かれて立った時に、ケンの呻き声が聞こえた。


「……!」


ケンの歪んだ表情に楓は気づき、心配そうに顔を覗き込む。


「やっぱり、大丈夫じゃないみたいだね……病院行かなきゃ」
「や、オレはいい。それよりお前の親父ってヤツはまだ来てないみたいだな――」


転んだ楓を起こすところを、反対にケンが楓に支えられて立っていた。
ケンは辺りをキョロキョロと見回して安堵したように言ったが、それを首を横に振って否定した。


「さっき、私のところに来た」
「えっ」
「相変わらずだったけど。でも、言いたいことは言ったつもり」
「いや、それは良かった……けど、大丈夫なのか? これからとか……。今、その親父は……?」
「あの、堂本って人が『任せてくれ』って……」


上背があっても、楓は女で非力だ。ケンを支えるのが大変そうだった。
その楓に代わって、ケンを支えながら圭輔がそう答えた。

そして走って来た方向を見ながら圭輔が言う。


「今頃、どんなことになってるんだろう……」