「あ……」


自分と同じ女の子なのに、どうにかして、だなんて無理な話だと、今になって瑠璃は気付く。

その瑠璃の様子をちらりと横目で見た後に、絵理奈が急に声を上げた。


「おまわりさん! こっち! こっちで喧嘩してるみたいです!!」


男たちに聞こえるように叫んだ絵理奈は、瑠璃の手を引いて近くのゴミ捨て場に隠れる。


「――警察?!」
「ヤバイ! 行くぞっ」
「時間は稼いだから、いいだろ」


バタバタと3人が走り去るのを瑠璃と絵理奈は息を潜めて見届ける。

姿が遠くに見えるようになると、瑠璃がすかさずケンの元へ駆け寄った。


「だっ、大丈夫ですか?」
「――あ? あれ……あんた、シュウの……」


座り込むケンに近づきしゃがみこむ。
カバンからハンカチを出して切れて赤く滲んでる口の端を抑えた。

すると、一人ゆっくり、コツコツと音を鳴らして近づいてくる絵理奈をケンは見上げた。


「――こんなとこで座り込んでる暇、ないんじゃないの?」
「ちょっと、そんな言い方っ……」
「『おまわりさん』っておまえの声だったのか……どういう風の吹きまわしだ?」


ツンとしたいい方に、瑠璃が口を挟む。
しかし、ケンは気にせずにそのまま絵理奈に問い掛ける。


「急いで行くとこ、あるんでしょ?」


ケンはふらりと立ちあがり、絵理奈に言う。


「お前、全部知ってんだな。やっぱリュウ(あいつ)の――」
「勘違いしないで。絵理奈はあんなやつのこと、好きでも何でもないんだから」


ふいっと背を向けた絵理奈の背中の薄ら青いアザに、瑠璃が気がついて口を開く。


「あなた、それ!」


瑠璃の指摘に絵理奈はハッとした表情をみせる。
そして、堪え切れないように「ふふ」っとひとり笑った。