普段、自分から誰かに話しかけることなんか出来ない。

そんな瑠璃が、躊躇いもせずにその女性の行く道を阻んで声を掛けた。


「あのっ! すみません!」
「えっ?」


正面から向かって、目の前に立ちはだかられる方は、心底驚いて顔を上げた。


「あなた、DReaMに行ったことありますよねっ?!」
「な、なに? あんた、誰?」


瑠璃が声を掛けた、俯きながら歩いていた人物は絵理奈だ。
突然見知らぬ女に声を掛けられて、怪しげな目で瑠璃を見る。

しかし、瑠璃はそんな視線になどお構いなしで絵理奈に顔を近づけて興奮気味に話し続ける。


「あの人! あのホストクラブに居る、背の高くて短い茶髪の男の人!」
「『短い茶髪』……?」


絵理奈は首を捻って復唱する。

リュウは長髪の黒髪だ。
ホストクラブ、長身、短髪、茶髪……。

それらを繋げていくと、絵理奈の中で一人の顔が思い浮かんだ。


「やっぱり! 知ってますよね?! ちょっと一緒に来て下さい!!」


心当たりのある顔をした絵理奈に気付いた瑠璃は、強引に手を取ってひっぱっていく。


「ちょっと、なんなのあんた?! 一体どこ……に……」


抵抗しつつも、瑠璃の力に負けて連れられると、数人の男の声がだんだんと耳に入ってきた。

その騒ぎの方へ目を向けた絵理奈は絶句する。


「一緒にあの人のこと、助けて!」
「は?! なんで絵理奈が……」
「だって、あなた、あの人のことが好きなんでしょ?!」


瑠璃にストレートに言われた言葉に、絵理奈は動揺する。

リュウが特別なんかではない。
ただの、遊びのひとつに過ぎない。

けど、ケンは?

絵理奈はケンとのデートを思い出す。

そうして自身に問うと、“関係ない”と簡単に切って捨てられない自分がいた。

少し間を空けて、絵理奈は一歩、その路地に近づいた。
そして後ろに立つ瑠璃にぽつりと言う。


「……あんた、頭悪いわね。絵理奈みたいな非力な女子が、この場を収められるわけないでしょ?」