「子どもみたいな真似はよせ」
堂本が横から手を伸ばし、正信の手から携帯を取り返す。
その間に、ケンからの着信が途絶えてしまった。
「ケン!」
楓は堂本から携帯を受け取る前に声を上げた。
「ケン? なんかあったのか?」
「実は、さっきリュウに……」
「――わかった。楓、お前は弟とケンの様子を見に行け。ここはおれに任せてもらっていいか?」
楓と正信の間に堂本が入って、楓に言う。
大きな背中を楓は見つめた。
見上げる楓を堂本は優しい瞳で見つめ返すと、一言付け足した。
「ああ。最後に、言いたいこと言ってやれ」
そう言われて、楓は目を丸くした。
そして堂本の顔から、その奥の正信へと視線を移す。
――本当かわからないけれど、戸籍上、実の父。
この男に、楓は恐怖と絶望を与えられた。
情なんてものはとっくに自分の中には存在しない。
情が湧くほど、慈しみ、大切にされた記憶などないのだから。
本当は、この世から消えて貰いたいくらいに思っていた。
けど、自分の手を犯罪に染めてしまえば全てが終わってしまう。
憎い父の人生と共に、自分の将来。そして、弟の人生も。
だから、どうしようもなくて、一人あの場所から飛び出した。
逃げることしか頭になかった。
けど――――
「私とお母さんを侮辱するなんて赦さない。二度と顔を見せないで。
そのままあの狭い世界で、一人きりで一生を終えるといい」
もう捕われない。
それほど無駄な時間はないと、気付いたから。
楓が正信に言い切り、再び堂本の顔を見た。
すごく優しく強い瞳で笑い返してくれたことに、凍りついていた心が温かになった。
「よく言った。よし、行け」
「……はい!」
吹っ切れた明るい顔で返事を返した楓は、圭輔の手を取って走り出す。
「っおい! まだ話は終わっ――」
「もう眼中にないってよ。あいつはもう前しか見えてないんだから」
追いかけようとした正信を、自分の体で遮って止めた堂本は、煙草を口に咥えてそう言った。