「娘に手を出す変態が、正論ぶって開き直ってんじゃねー、つってやれ、楓」
楓が怒りに震えて、奥歯を噛んでいると、横からそんな言葉が聞こえてきた。
ハッと顔をあげると、楓の目に映ったのは、二人の男。
「堂本さん……圭輔……?」
なぜ、圭輔が堂本と?
そんな疑問も浮かんだが、今は正信のほうが問題だ。
今にも噛み付く姿勢の犬のようだった楓の表情が和らいだ。
その僅かな表情の変化に気付いた圭輔は、姉の恋に胸を痛める。
「お前も桜と同じ、男に寄生してるんだな。さっきまで一緒だった若い男から、こんな歳上の男まで……うまく取り入ったもんだな」
正信は堂本を上から下へと品定めでもしてるかのようにじっくりと見ながら言った。
その視線をものともせずに堂本が反論する。
「自分のしたことを棚に上げてよく言うな……ひとつ言っておくが、楓は自分の力で生きてる。話を聞けば、あんたは随分自分勝手に生活してるようだ。なら、もう放っておけよ」
「自分の娘をどうしようが、オレの勝手だろ?」
「調子のいいことだ。都合が悪くなれば、“娘じゃない”といい、状況が変われば“娘だ”という」
「――うるさいっ。大体あんたにゃ関係ねーだろっ」
堂本と正信のやりとりを、楓は固唾をのんで見ていた。
今まで圭輔以外に、こんなにも真剣に庇ってくれる人間は居なかったから。
楓は込み上げる想いを胸に、きゅっと自分の手を握る。
「確かに。関係ねぇけどな。でも、楓(こいつ)がおれを求めてるなら、力になってやりたいと思うから」
ある種、堂本の告白ともいえる発言。
けれど、決してそういう意味ではないと、楓は理解している。
それでも今は、その言葉が素直に嬉しくて、目頭が熱くなる。
そんなときに楓の携帯が鳴った。
その無機質な音に、その場が一瞬止まる。
楓がポケットから出した携帯を確認すると、正面にいる正信にそれを取り上げられた。
「また別の男からだな」
「ちょっ、返して!」
楓は慌てて携帯を取り返そうと手を伸ばした。
必死に奪い返そうとしたわけ――。
それはディスプレイに、リュウに連れられた【ケン】と表示が出ていたからだった。