後方でレンがリュウに詰め寄っているにも関わらず、楓はそのことに気付かなかった。

なぜなら――――。


「……ホントに来てやったぞ」
「――っ」


楓の前に立ちはだかる男、父・成宮正信(まさのぶ)が目に入ったからだ。


(よりによって、一人きりのときに……ううん、でも、目を逸らすもんか)


一瞬、体が先に拒否反応を起こしかけた。
が、楓は強い意思でそれを抑え込み、ギッと正信を睨みつける。

本当は、ドキドキと激しく脈打ち、口から心臓が飛び出そうなほどだ。
あまりの緊張から、冷や汗を感じる。

でも、その汗をぎゅ、っと握り締めて顔を上げる。


「なに粋がってるんだ? オトコが出来たからか?」
「それ以上近付かないで。二度とあんたに触れられたくない」


イヤラシイ笑い顔に、寒気がする。

腹が立つことを言われても、楓は冷静に、取り乱したらダメだ、と言い聞かせて正信に向き合う。


「……あのときのことを言ってるのか? 仕方ないだろ?」
「『仕方ない』……?」


眉根に深いシワを作って正信を見る。

家出したときから変わってないのだろう。
目が少しトロンとした様子から、アルコールが完全に抜け来れてないのだ、と楓は察する。

それでも、記憶が飛ぶほどの飲酒量とは思えない正信を、じっと見つめた。

すると、正信が楓に説明する。


「だってそうだろう? お前が桜にそっくりだから」
「『そっくりだから』って! 実の娘に……っ! 立派な犯罪よ‼」


楓は興奮気味に反論すると、感情が昂ぶってるせいか、涙目になる。

そんな楓を見てもなお、正信は飄々と続けた。


「『実の娘』じゃないなら問題ないだろ? 血も繋がってなけりゃ、ただの男と女なんだからよ」


恥ずかしげもなく、さらりと言ってのけた正信を、心底軽蔑する。

楓は母である桜と、自分も同時に見下されてる気がして体中が沸騰しそうだ。