(ここだ。ホストCLUB DReaM…)


一度アパートに戻って、渡されたスーツを着て店に来た。

スーツはどんな状況下でも気持ちがシャキッとする気がするが、店の階段を下る足元は汚れたスニーカーのままだった。

階段を降り切った所に、黒く大きな扉が構えていた。

それを静かに開け、覗き込むように顔を出す。
薄暗い店内は、ホストクラブというのに静かで拍子抜けした。
考えてみれば、まだ店が営業を始める時間ではないのだから当然だ。


楓はただ扉から店内を覗き見るだけで、未だに中には入れずに居た。


「…なにしてんだよ」


そんな挙動不審の楓の背後から、声がする。
声も出せないくらい驚いた楓は慌てて振り向く。
そこには煙草を咥えた堂本が立っていた。


「早く入れ」
「…すみません」


目で威圧されて、楓は先に店に足を踏み入れた。
後ろから続いて入ってきた堂本が楓を通り過ぎ、近くのボックス席にどさっと腰を降ろした。
そして頭から足までじろじろと楓を見て、煙草を灰皿に押し付けた。


「似合うな、やっぱ」


ニヤッと笑う堂本に、楓は不思議と嫌悪感は感じなかった。
その笑いに下心や不快感を感じなかったからだ。

ただ、それに対してなんと答えていいかわからずに、楓は黙ったまま。
突っ立ったままの楓に、堂本が袋から取り出した大きめの箱を無言で差し出した。


「え?」


それを楓は受け取らずに不思議そうな声を出した。
すると堂本は、下から上へ軽く投げ、放物線を描くようにして楓の手元にその箱が渡った。