ケンを後輩に任せたリュウは、足早に来た道を戻る。
笑いを堪えようとしても、自然と口元が緩んでしまう。
「ここしばらく、本当退屈してたんだよなぁ……」
リュウの長い足は、楓との距離を縮めて行く。
角を曲がって遠くをみると、楓と思われる後ろ姿があった。
気持ちが駆け足になっているほど、リュウは高揚していた。
何らかの理由で家を出た、男(ホスト)と偽っている女。
男にも見える容姿は、可愛いというよりは美人。
話をした感じでは、男を演じていたためか凛々しくも思うが、どこか脆さも感じていた。
その女は力ででも征服されたら、どんな顔をするのだろう。
そして、その事実を突きつけられたら、ケンはどうなるのだろう。
「やべ……笑いが止まんね」
リュウは楓との距離がなくなっていくにつれて、そんな歪んだ思考が溢れていく。
いよいよ楓が射程距離に入ったかと思ったリュウは、辺りの気配などに全く気づかなかった。
「――――シュ……⁈」
「シュウ」と呼び止めようとしたリュウが、突然肩を抑えられた衝撃に驚いて言葉を一度飲み込んだ。
自分の肩に手を置く、背後にいる人物を振り返り確認する。
「な! ……んで」
「しばらく大人しくしてるかと思ったのに」
「……‼ もしかして、あの時のロッカー室にいたのは――」
肩から手をゆっくり離した、リュウと比べると上背が低いその男は、少し見上げて鋭く視線を向ける。
綺麗な茶髪の前髪から覗く瞳は、力強い。
その目力に、背格好では勝っているはずのリュウが一歩退いた。
「――――俺だよ」
射るような目で、リュウにそう答えたのはレン。
「ずいぶん楽しそうに笑ってたけど、その理由(ワケ)でも聞かせてもらおうか」