リュウに再度殴りかかろうとした腕を、突然掴まれる。

リュウは涼しい顔をして、ポケットから煙草を取り出した。


「なっ! なんだよ、コレ‼」
「――ジャマだからな。ちょっと時間稼ぎ?」

(じ、時間稼ぎって――――!)


優雅にジッポで煙草に火をつけながらリュウはケンに言う。
ケンはリュウから自分の腕を掴んでいる方へ視線を変えると、片腕ずつに一人と、後方にまた一人立っていることに気が付いてゾワリとする。

名前はまだうろ覚えだが、同じ店のホストだとケンはわかった。


「ああ、顔は避けた方がいいな。一応、ホストの端くれだし、騒がれるからな」


目を伏せて、穏やかな口調とは裏腹に物騒な指示を出す。


「そんじゃ、また“あとで”な」


リュウはケンの顔に、ワザと煙を吐き、背を向けてひらひらと片手を上げて去って行った。


「おい! 待てって――」
「よそ見してるとアブナイぞ?」


リュウの背中に叫びかけたケンは、首もとに囁かれてギクリとした。


「個人的に、そこまで恨みっつー恨みはないけどな」
「でもリュウさんの話だと、オーナー取り込んで、調子に乗ってるらしいし?」
「No.3のリュウさんに取り入っとけば、出世の可能性でかいからなぁ。悪く思うなよ? 新人」


体格はケンの方が勝っている。

でも、ケンカというケンカをした記憶もなければ、多勢に無勢……ケンの勝ち目はかなり低い。


(やべぇな、マジで。どうにかここを逃れて楓のとこにいかねぇと……)


「じゃ、遠慮なく」


背後の男の声で、一斉にケンに殴りかかった。