「だけど、ほんとにここに来んのかな。だってまさかホストやってるなんて思わないだろ……」
「……予感がする。あいつはここに来そうだ、って」
「ホスト同志で同伴か? 相変わらず仲のいいことだ」


店まで目と鼻の先の場所まで歩いてきた楓とケンの前に、突然リュウが現れた。

煙草を咥えてだるそうに立ち、携帯をポケットに戻すと、薄ら笑いを浮かべる。
その姿は、いつものことながら、ガラが悪い。

同じように、いつも煙草を口にしている堂本と比べると、どうしてこうもいやらしさがあるのか。

そんなことを楓は思いながら、真顔でリュウを見上げる。


「なんでいちいち突っかかってくるんだよ? オレらなんて下っ端、眼中にないだろうよ」
「ホストとしては初めから眼中になんかねーな」
「じゃあなんで……っ」


ケンがいつものようにリュウに食ってかかると、リュウはヘラヘラと笑いながら煙草をその場に捨てた。

そしてその煙草を踏みつけて火を消すと、前に出てきたケンに近付く。ケンの肩に腕を回したリュウは楓に聞こえない声で囁いた。


「こいつの正体、教えてやろうか?」


そのセリフにケンは静止した。
ケンの変化に気付いたリュウは、一瞬笑みが消えたが、すぐに「くっ」と喉をならして低い声で笑った。


「お前も知ってたのか」
「――な、に……を」
「あいつの秘密だよ」


リュウはカマを掛けてるわけじゃない。
本当に、楓の秘密を知ってしまったのだ。

そうケンは思って、慌ててリュウに詰め寄る。


「てめぇっ……どこでそれを!」
「聞きたいか? ちょっとツラ貸せよ」


リュウがケンに腕を回したまま、楓を置いて歩いて行く。


「ちょ、どこ行くんだよ!」


楓が声をあげると、リュウがピタッと止まり、ゆっくりと振り向いた。
満面の笑みで楓を見て言う。


「ちょっと男同士の話があるんだよ。なぁ?」
「……シュウ、先、店行ってて」


ケンにもそう言われてしまうと、楓は為す術がない。


「……わかった。すぐ終わんだろ……?」


楓が聞き返すと、ケンは優しい微笑みで応え、そのまま歩いて行ってしまった。