「知ってるんだろ?」


今までの女との反応の違いに、手応えを感じた男は嬉しそうに絵理奈の顔を覗く。

絵理奈はしばらく写真を見て、それを男に突き返した。

そしてグロスが光る、絵理奈の唇がゆっくり開いて言った。


「――――知らないわ」


その答えを聞いて、余裕が表れていた男の表情が一変する。


「おい! ウソつくなよ!」
「……知り合いに似てただけよ」
「そいつがそうかもしれねぇ。教えろ」
「知ってるのは“男”よ」


絵理奈はそう言い切ると、そのまままた歩き出した。
そしてすぐに携帯を取り出して、ディスプレイを見る。

そんな絵理奈を横目でみて、舌打ちをした。そしてまた別の女がいないか、その場で男は辺りを見回していた。


「…………」


絵理奈は携帯の画面をしばらく見たまま止まっていた。

発信履歴の画面には【リュウ】。
その下にある【ケン】という文字と、一人格闘する。

悩んだ末に、絵理奈は親指を動かし、電話を耳にあてた。


「――もしもし。絵理奈」


発信して、わりとすぐに相手が電話に出た。
絵理奈は淡々と言う。


「今……シュウのお父さんらしき人に会ったの。写真を持ってて――その写真に写ってたのはシュウで……女子の制服を着てた」


そう伝えると、向こう側からなにやら言われる。絵理奈はただ「わかった」と言い、まだ視界に届く程の距離にいる男に目を向けた。

ププッと通話終了の音を確認すると、携帯をカバンに戻しながら踵を返す。


「――――ねぇ」


絵理奈の呼び声に、男もまた、ピタリと足を止め、振り返った。


「……教える気になったか?」
「……ホストクラブDReaMに行ってみるといいわ」
「ホスト……?」
「あとは好きにして」


絵理奈はツン、とした顔で言い放ち、再び男に背を向けて歩き出す。
その背中を見つめながら、不思議そうな声で呟いた。


「ホスト、クラブ……DReaM?」


そして写真の中の楓を見て、考える。
しばらくして、ふん、と鼻で笑い、写真に向かって言う。


「ホスト通いか? やっぱり男好きは母親似ってとこか」


そうして男は絵理奈が言った店を探し始めた。