ふらり、と怪しげな人影が繁華街にあった。

皺だらけのトレンチコート。
その裾から出ているズボンも皺だらけ。

綺麗とはお世辞にも言えない格好の中年の男は、まだ眠っている繁華街を歩く女に視線を向ける。

キョロキョロと辺りを見回している様子は、どうやら捜し人が見当たらないようだ。

すると、重だるそうに歩いて、出勤途中であろう女性に声を掛けた。


「この女、見たことあるか?」


髪を盛ったその派手な女は、つけまつげが重そうな目を見開いて足を止める。
そして恐る恐る男が手にしている写真をチラッとみて「知らない」と短く答えると走り去ってしまった。


「ちっ。あ、ちょっと!」


逃げ去った女に舌打ちをして、また近くを歩く別のキャバ嬢に声を掛ける。


「この女、あんたのとこで働いたりしてねぇか?」
「……見たことない顔だわ」


ごてごてのネイルを施した指で、その写真を男に返しながら、女はヒールを鳴らして去って行く。

そんなやりとりを、男はその後も数人続けた。

あまりに情報が皆無だ、と、苛ついたときに、また別の女が近くを通った。


「ちょっと、あんた」
「は?」


ぶっきらぼうに声をあげて、女は立ち止まる。


「この女、見たことねぇか」


突然呼び止めたその男の出で立ちに、その女は怪訝そうな顔をしてピンクのパンプスを一歩下げる。

無視して行こうか、と思ったときに、男が持っている写真がチラリと視界に入って目を見開いた。


「――これ!」


バッとその写真をひったくる。
写真を取られた男の鼻腔を、バラの香りがくすぐった。

男はニヤッといやらしく笑って、突然優しい口調で言った。


「オレの大事な娘が家出しちまってね。あんた、知ってるのか?」


男の声に反応もせず、ただ手にした写真を凝視していたのは――絵理奈だ。

その写真は、高校の制服を身に纏っている楓の写真――女子の制服だ。


(し、シュウ……! まさか、リュウの話は本当に……⁈)