楓やケンと同時にアパートを出た圭輔は、「帰る」と言いながらも、駅には向かわずにいた。


「色々ありすぎて、わけわかんね……」


橙色の光が真正面から照らしてくる。
そんな眩しい光も感じない程、圭輔はふらふらと、一点だけを見てただ歩く。

自分の今の心境は、簡単には表せない。

ただでさえ、叶わない想いを抱いていて、不安定なのに。
さらに、その相手である、姉・楓の突然の告白。

自身の正体を偽って働いているという、ホスト。

そしてあのアパートを含め、その世界に引き込んだあの大人の男。

その男に惹かれているのだ、と圭輔は今朝の楓を見てすぐに理解した。


「あんなやつに――ガキのオレが敵うはずねぇじゃん……」


ピタッと足を止めて、もどかしい想いを吐露する。

ふと顔をあげると繁華街。
――もしかして、と思い、吸い込まれるようにそこへ足を踏み入れる。

楓の出入りしている街……そう感じて、圭輔はなんとも言えない気持ちのまま、また一歩足を出す。

すると、脇に止まっていた一台の車のドアが開いた。
何気なく、その車から降りてきた人間に視線を向ける。

虚ろな圭輔の目に映ったのは、今、まさに思い返していた人物本人だった。


「……あれ?」


肩を落としたように立ち尽くす圭輔に気づいて、その車から降りた人物――堂本が先に声を掛けた。


「お前、楓の……こんなとこでなにしてんだ?」
「……別に」
「――ああ、聞いたんだな。あいつがしてること。あいつを責めないでくれ。おれが誘った張本人だ。なんかあるならおれに――」
「なんで、そこまでしてくれるんだよ。あんた、姉ちゃんをどう思ってんの?」


羨望と嫉妬と……憎悪に似た感情が入り乱れながら圭輔は問う。

その圭輔の感情が表れている目をみて、堂本は気づく。

――――自分と同じだ、と。


「圭輔……っつったか。お前も――」


堂本が驚いた目でそう言いかけたときに携帯が鳴った。
一瞬止まった二人は、携帯の鳴る方へ視線を向ける。

音源は堂本のポケット。
そこから携帯を取り出すと、表示を確認して堂本は電話に出た。