指定された時間は翌日の午後3時だった。

楓は乱雑に書き留められた地図を頼りに、その目的地へと向かっていた。


(ここ…? 凄い…!)


足を止めて見上げたマンションは外観からして高級そう。
マンション名をメモに書かれたものと一致するかを確かめてから、楓はマンションへと足を踏み入れた。

オートロックの入り口には、インターホンが設置されている。
その正面に立ってから、再度手にある紙を何度も何度も確認してから部屋番号を押す。

ピンポーン…と、やたら大きく響く玄関でそわそわしてしまう。
その音が消えて暫くしてから、インターホン越しに返答が聞こえた。


『…はい』
「あ、あの…堂本さんから―――」
『ああ…』


全て短くしか反応のない声のまま、入り口の自動ドアが開かれた。
恐る恐る通り抜けると、広いエントランスにまた驚きながらエレベーターに乗り込んだ。

目的の階数に着き、再びドアの前でインターホンを鳴らす。

ガチャっと隙間から顔を覗かせたのは、中性的な顔立ちの、静かな雰囲気の綺麗な男だった。


「すみません、あの…」
「これでいいか?」


説明する間もなく、その家の主はドアの隙間から黒いものを楓に差し出した。
それを咄嗟に受け取って、渡されたものが約束のものかを確認する。


「あ…はい。これで…」


楓に手渡されたものは紳士用のスーツ数着。
堂本に指示されて怖々やってきたこのマンションは、どうやら同じ店のホストのようだ。
楓は自分の諸事情を知る堂本が、「こいつは大丈夫だから」と案内したのに納得した。


「ありがとうございます…」
「別に…」


明らかに女性(じぶん)になんか興味がないホスト。
恐らく楓の顔すらまともに見る気はないのだろう。
その家主はそのままドアを閉めた。