それから数日後。

弁護士というのは、机に向かっているだけじゃなく、探偵並みにある事柄について調査するために外を掛けずりまわる。

洋人も例外ではない。

しかし、今回は依頼人なるものが存在しない。
しいて言うなら、依頼人は洋人自身。

あれからどうしても、ユキという存在が気になって、仕事の合間に調べていた。

仕事のついでに、さりげなくママからユキの情報を引き出したりして、ユキという女性の正体を知る。


「――――堂本……菫?!」


“ユキ”というのは、いわゆる源氏名。
そんなことは当然わかっていた。だから本名があることに驚いたわけではない。

その苗字に、覚えがあるからだ。


「まさか、こんなことが――」


洋人がその名を知って、愕然とするのも仕方がない。

その名は、自分の元妻が再婚したときの、相手の連れ子なのだから。


「……通りで“彼女”に似ているわけだ」


洋人が菫を見たときに釘付けになった理由――“成宮桜”という一人の女性に似ている、そう思ったが、彼女は桜を“知らない”と言う。


「まさか桜の姉の方だったとは……」


一人深夜の事務所で、スタンドライトのみで手元の手帳を広げて呟く。
その間に挟まってある写真を拾い上げ、懐かしそうに洋人は呼んだ。


「……桜」


その写真に写るのは、まだ働き盛りの頃の洋人(自分)と、菫とそっくりの女性――桜だった。