「……?」


洋人の異様な視線に、ユキは不思議そうな顔をして洋人を見ていた。
そんなユキに気がついて、洋人は我に返って話しかける。


「ああ、すみません。美人だなぁ、と」
「そうでしょう? 自慢の子よ」
「そんなことないですから……」


洋人が本心から言うことに、ママは満面の笑顔で頷く。
しかしそれを謙虚に受け止める姿勢のユキに、ますます洋人は興味が湧く。


「私があと20若ければなぁ」
「まぁ。星見さん、おいくつ?」
「50過ぎのおっさんですよ」
「お若く見えますよ。ユキちゃんいくつになったかしら?」
「わたしは30になりました」

(30か……。あの人は多分40……親子ではない、か。でも――)


洋人は、自分の知る、その似た女性を思い出して思う。


よく交わされるような会話を3人でしていると、店の電話が鳴った。

ユキがそれを取ろうとすると、ママが「いいから」と言って、洋人に申し訳なさそうに会釈をして電話に出た。

その間、洋人とユキは二人になった。


「いらしたばかりなんですよね? 今、何か飲み物を――」
「突然変なことを聞くけど、成宮桜(さくら)という女性を知っていたり……?」
「成宮、桜?」


洋人が口にした名前に、ユキは本当に“わからない”という顔をした。

そのユキの心情を察して洋人は軽く手を上げた。


「いや、なら、いいんだ。申し訳ない」
「なんだか、お役に立てなかったようですみません」


ユキはまた深々とお辞儀をして、洋人にコーヒーを淹れ始めた。

するとそこに電話を終えたママが戻ってきて、洋人がユキと言葉を交わすことはこの日、なかった。