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「ごめんなさいね。お忙しいのに」
「いえ。仕事ですから」


洋人は一件のクラブを訪問していた。

まだ開店していない店内は、ガランとして静かだ。

ボックス席が3つ。
そしてカウンターに椅子が5つ。
決して広くはないが、その店内は落ち着いていて上品で綺麗、かつ高級感が感じられる。

それはカウンターの向こう側に立つ、和服姿のママも同じだった。


「以前、名刺を下さったから……助けて頂けたら、と思いまして」
「はい。私に出来ることでしたら」


洋人がこのクラブのママに呼ばれたのは、客の中で支払いが滞ってるという相談をされたためだった。


「おはようございます」


そんな話をしている最中に、カウンターの奥から姿を現した一人の女性。


「あら、ユキちゃん。いつもいつも早いんだから。みんなと同じでいいのよ?」
「ありがとうございます。でも、わたし、人より欠勤率高いですし……」
「仕方ない理由でしょう? 欠勤率高いっていっても、2、3ヶ月に一度あるかないかだし、気にすることないのよ」


洋人の前で、そんな会話を交わした女性は、最後ににこっとママに笑顔を向けていた。
その笑顔に洋人は釘付けになる。

ただ、その女性が好みだとか、そういうものではない。
確かにどちらかと言えば好みの方だが、それよりも、その笑顔に面影がある別の女を思い出していたからだ。


「あの……」
「あら。星見さん、ユキちゃんご存知なかったかしら」
「え、ええ……」
「あ。じゃあ、ちょうどユキちゃんがお休みだったのね。うちの看板娘、ユキ」
「ママ。『看板』なんかじゃ……あ。すみません。初めまして。ユキ、と申します」


ママに紹介されるように、その“ユキ”という女性が深々と頭を下げる。

顔を上げた時に、洋人は初めてユキを正面から見た。


(いや、やっぱり似てないか……?)


「こちらは、笹原さんのお連れ様で一度ご来店下さった星見洋人さんよ」


ママはそんな洋人に気付くことなく、ユキに洋人を紹介する。