「――――!!」


今までどんなことが起きても、さすがに咥えた煙草を落とすなんてことはなかった。

けど、今、堂本の靴の先には一本の煙草が転がっている。


「その顔からすると、菫さんが言ったこと、嘘じゃないみたいだな」
「……『嘘』ってなんだよ……」


最近、菫を思い出すことが増えた気がしていた。
それは楓が自分の傍にいるせいかと思っていた。

そんな時に、なんの因果か――本物の話が自分に舞い込むなんて。


「いや……堂本さんの娘だとわかって。だったら、今の由樹(お前)のことも聞けるかと思って、聞いたんだ。
そしたら、菫さんはこう言った。『すみません。知らないんです』ってな」


これから車で仮眠を取ろうとしていた堂本だが、おそらく寝ることなど出来ないだろう。

まさか、しばらく振りに実の父親が目の前に現れて、しかも義理の姉の話をされるなんて。

頭の中が混乱して、眠くなるどころか目が覚める話だ。


「どこでっ……どこで、菫に」
「なんだ。お前が避けてたんじゃないのか? 菫さんがそう言っていた時の顔は寂しそうに笑ってた」
「――――っ」


自分が菫から離れたという事実。
そのことは、さすがに父親といえど知らないだろう。

だけど、その“知らない父親”でさえ、『お前が避けてた』と気付くような菫の顔を想像したら胸がキシキシと音を立てた。


「……でも、本心はそうじゃないようだな」
「……知ったかぶるような言い方しないでくれ」
「ははっ。図星だな。……知りたいか? どこで彼女に会ったのか」


洋人は穏やかな口調で堂本に言う。

堂本はしばらく考え込んで、洋人と向き合っていた。