楓はその状況に、長い時間目を閉じる。

そして再び目を開いてケンを真っ直ぐと見据えると、表情を変えずに言った。


「ごめん。僕――――いや、私、ケンに嘘をついてた」


楓の言葉を聞いてもなお、ケンの頭は真っ白だ。
加えて圭輔も、ケンが楓を別名で呼んだり、楓が自身を『僕』と言ったことの理由を考える。

そして、ケンは楓の告白を理解し始め、圭輔も、堂本の出で立ちなどを思い返してひとつの予想に行き着いた時に楓が口を開いた。


「私は正真正銘の女で、ホストをやってた」
「ほ、ホスト⁈」


驚きに声を上げたのは圭輔だ。
ケンは瞳から驚きを感じ取れるが、なにも言わずに楓を映し出していた。


「今まで嘘をついていてごめん。――でも、ケンと居て、思ったこと、話したことは嘘じゃない」


楓は精一杯の誠意で、ケンから目を背けることなく、心を込めて謝った。
それを受けてもなお、ケンはまだ何も発さなかった。

楓とケンが、見つめあっているところに圭輔が楓の肩に手を乗せて言う。


「ホストって、マジかよ姉ちゃん⁈ なに考えてんだよ? そんな危ないとこっ」
「……ほんと、なに、考えてんだ?」


圭輔の言葉に続いて、ようやくケンが口を開いた。


「――ごめん。でも、遊び半分で決めたわけじゃないし、ケンをバカにしてたとかそういうことじゃ、」
「わかってる。騙された、とか思わねぇよ。ただ、そんな困った顔するくらいなら、オレに言えばいーのに……なに、考えてんのかなって」


ケンは驚きはしたものの、まさか、本当に女だったとは、と頬が緩む。

楓はあっさりと受け入れられたことに、呆然とするが、すぐに頭を下げた。


「……ありがとう」


サラリとした楓の黒髪が下を向く。
一向に顔が上がる気配なく、楓のツヤのある頭頂部をケンは眺めていた。

楓は自分のつま先を見ながら、言いづらそうに続けた。


「――――お願い」


その楓の全身全霊のお願いを、ケンと圭輔は身動きもせずに、黙って聞いていた。