「友達……? 高校の?」


怪訝そうな顔をした圭輔の質問に、楓はふるふると首を横に振る。


「圭輔、私ね。あの人に逢えて本当によかったと思ってる」
「あの人って……さっきまで、ここにいた……?」


急に穏やかな表情になった楓が頷く。
圭輔はその雰囲気にそれ以降、口を閉じた。


「あの日、私が圭輔を置いて飛び出した日……手を差し伸べてくれたのが、彼だった。
初めは胡散臭くて変な人、って思ってたんだけど……徐々に、私の中で“頼れる存在”になって」


楓は、きゅ、っと布団を掴んで間を空けてから言った。


「だから……心強い人が居るから――考え方が前向きになったの。
圭輔は、きっと、これから知る事実に『なに考えてるんだ』って言うと思うけど……でも、ちょっとだけ猶予が欲しいの」


眉を潜めて楓の顔をじっ、と見つめる圭輔は、真剣な眼差しの姉に何も言えずに突っ立っていた。

すると、二人の間に『ピンポン』とインターフォンの音が鳴り響いた。

動かない圭輔を横切って、楓はすっと玄関に向かい、ケンを迎え入れる。


「――よ、よぅ」
「……ケン。何か用があった?」


バタンとケンの背中で扉がしまる。

3人がその場に立ったまま、少しの沈黙が流れた。

ケンは楓の肩越しに見える、奥の圭輔に視線をやる。
圭輔もその視線に負けないように、目を逸らすことなくケンを睨み返していた。


「いや……気付いたら帰ってたから……具合悪いみたいな話聞いたし。ちょっと、気になって」
「ごめん。心配掛けた。大丈夫だから」
「でも、弟が来るくらい、ヤバイのかと思って……」


そういうケンは、額に汗をかいていた。
電話で住所を聞いて、駆け足でここまでやってきたのだ。


「弟の、圭輔です」


圭輔が楓の後ろにやってきて、敵対心剥き出しで名を名乗る。
ケンは痛いほど突き刺さる圭輔の視線の意図が読めずに、たじろぎながら返事をする。


「あ、オレは健太。シュウには世話になってます」
「……『シュウ』?」
「え? あ……そか。名前違うのか」
「『名前が違う』? どういうこと? “姉ちゃん”」


その圭輔の言葉にケンは止まる。

瞬きもせず、圭輔からゆっくりと楓に視線を戻し、心から驚いた声でぽつりと漏らす。


「姉……ちゃん……?」